カロト家の日記

February 17, 2020

西穂 独標で導かれた話

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深夜に自宅を出発、早朝の新穂高に着いた。

高山へ抜ける道路は小坂あたりからうっすら白く、平湯の手前くらいからはしっかり雪道だった。

ジムニーを深山荘の登山者用駐車場に止めて、僕たちは始発のロープウェイに乗った。

 

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鍋平で乗り換え。始発からすでに観光客が多い。

 

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ロープウェイはものの数分で一気に高度を上げ西穂高口駅へ。

西穂には昨年夏に来たけど、厳冬期の西穂に来たのは3年前。ロープウェイの窓からこの冬景色をみるのは久しぶりだ。

 

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今回は厳冬期の西穂 独標に挑むまさこ姉さんの付き添い。

この日のために、しっかりと準備をしてきたので大丈夫でしょう。

 

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例年に比べると今年の雪は少ない。と言ってもここはやはり北アルプスなので雪多いよ。

 

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まずは西穂山荘を目指して雪に覆われた登山道を進む。

 

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西穂山荘到着。巨大な雪だるまが迎えてくれます。

 

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ここからは12本爪のアイゼンとピッケル、ヘルメットにバラクラバ(目出し帽)も装着して完全防備。

手袋はウールのインナー、分厚くてあったかいミドル、ゴアテックスのアウターの3レイヤード。

準備を整えたら、西穂山荘を出発。

 

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丸山に到着。

厳冬期の稜線に吹く風はやはり冷たい、というか痛い。ちょちょぎれる涙がまつ毛に凍りつくけど、ここまではまぁ余裕。

 

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さあ、独標に向けて丸山を出発!ここからは難易度が上がる。さすがに緊張してきた!

 

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ガスと雪に包まれると一気にこんな風に先が見通せなくなる。

それでもガスが一瞬切れると視界がパッと開ける時がある。

急に視界が良くなる時に二人が思ったのは「導かれているよう」

 

独標の手前までは急登。

滑ったら止まれない急斜面なのでアイゼンの爪をしっかり効かせて、体力を削らないよう、着実に一歩づつ。

痩せた尾根の左右は切れ落ちた断崖絶壁。

視界が悪い時は特に、雪庇を踏み抜かないよう要注意。

 

なんとかかんとか独標の肩まで来た。

ここからは短いけれど今回一番の核心部。独標への取り付き。

雪と氷と岩で出来た凍てついた雪壁にピッケルのアックスを刺す。

アイゼンの前爪を効かせた前足に重心を移動し、ピッケルを持つ手と片足でじわりと体を持ち上げ、壁にへばりつく。

風が強い。自分のアイゼンで出来たトレースが風雪によってどんどん消されていく。

 

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西穂高岳 独標に無事到着した。

 

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まさこ姉さんは目標にしてきた厳冬期の独標に立った。握手をして登頂を祝った。

相変わらず風が強く、ここにいては体温を奪われるので、余韻に浸る間も無く、すぐに下りへ。

 

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地形図とコンパスで帰り道のルートを確認。お互いの無事を祈る。

 

僕が先導するように独標から先に下る。

後ろ向きになってクライムダウン。

下に伸ばした足のアイゼンの前爪を雪壁に蹴り込む。

新雪がさらさらと崩れて足元が見え辛い。

雪壁に刺したピッケルを握りながら慎重に下の足に体重を移して行く。

 

雪と風とガスで視界が悪く、数メートル先が見えないため、先のルートが見えない。

上りで付けたトレースはすでに雪によって消されているので、自分の判断でルートを決めながら降りて行く。

まさこ姉さんもしっかり付いて来ている。

 

独標の肩までもうあと少しだろう。

とにかく視界が悪いので先が見えない。

まさこ姉さんと声を掛け合い、ルートを確認するためガスが切れるのをしばらく待っていた。

 

そこには僕たちと同じく独標から下る後続の登山者が二人いた。

少し離れた場所で、僕たちが下るのを待っているソロ同士の登山者。

 

その一人がバランスを崩し、転倒。

音も無く、深い谷底に吸い込まれて行った。

本当に一瞬の出来事だった。

 

消えて行った登山者に向けて急いで大声を出して声を掛けたかったが、どこまで落ちて行ったかを想像すると、絶望的だった。

救助を呼ばなければ。小屋の人に知らせなければ。滑落したと。

携帯を出して今すぐに電話を掛ける事も考えたけど、風も強く、通話はままならないだろう。

自分が安否を確かめに行くこともよぎった。

だけど、今一番に優先することは、まず自分たちがこの難所から「無事に下りる事」だと。

慌てたり急いだりして、ひとつのミスをしたら同じ運命を辿るかも知れない。

残された3人は、お互いに声を掛け合った。とにかく慎重に安全な所まで戻ろう。

みんなものすごく冷静だった。

 

独標の下りは難所を越えた。

足場が良い場所まで下りたが、その後も、視界が悪い。

慎重にルートを見定めている間に、凍てつく稜線の風は、僕たちの熱を少しづつ奪っていく。

一瞬視界が開け、先のルートが見えたと思ったら、またすぐに雪とガスに包まれる。

ホワイトアウトすると方向感覚が無くなる。

コンパスで合わせていた方角に視線を集中していると、一瞬ルートが見え、登山者を確認した。

登ってくる登山者に滑落事故を目撃した事を伝えたら、その登山者は先に小屋まで戻ってくれた。

 

僕たちは小屋に着いた。

小屋の人に状況を説明に行ったまさこさんによると、滑落した登山者本人から直接警察に電話があったという事。

奇跡的に無事でいて、自力で登り返し小屋に向かって歩いているとのこと。

信じられない事が起こった。

 

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その後、小屋の前で滑落した登山者に会えた。

その方の顔を見た時は、やはり熱いものが溢れてきた。

100m位滑落して打撲はしているけど自力で歩けると。

なんちゅう生命力。

本当に無事で良かった。

 

もし、自分があの場に居なかったら、厳冬期の雪山登山の怖さが一生分からなかったかもしれない。

毎年、雪山での滑落事故は後を絶たない。でも、どっかでやっぱり人ごとだった自分がいた。

自分は大丈夫!といい聞かせているような所があった。

でも、一瞬のミスで自分があの登山者と同じ立場になることは十分に有り得るなと思った。

山に行く事は、大なり小なりリスクがあると思う。

しかし、知る事や感じる事、または得られる経験は非常に多い。

導かれるように独標に立ち、あのアクシデントの後も、ちゃんと導かれるように小屋に戻ってきて、こうして家に帰ってきてあの日の出来事を綴る事が出来る。

僕もまさこ姉さんも、あの日、西穂 独標に行って良かった。と心から思っている。

 

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祝!!まさこさん西穂 独標に立つ!!

 

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